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Konrad oder Das Kind aus der Konservenbüchse
    缶詰から生まれたコンラッド

西ドイツ映画 (1983)

ダニエル・トーベケ(Daniel Thorbecke)が主演するSF色の薄いコメディタッチのファミリー映画。誤配で大きな荷物を受け取った女性が、中に入っていた大きな缶を、何だろうと缶切りで開けると、中に小さな子供が入っていて、いきなり「初めまして、お母さん。活性化用の粉は蓋の裏にあります。少し急いでもらえると、ありがたいのですが。一度缶を開けてしまうと、僕は、活性化剤なしでは長持ちしないので」としゃべり出すオープニングは、意表を突いて面白い。そして、活性化を溶かしたお湯をかけると、あっと言う間に実物大の子供になるところも。それにしても、人工的に作った理想の子供を、わざわざ缶詰に入れて、ミニサイズで送る必要など全くないのに、それを敢えてやったアイディアはバカげているが、ナンセンスで笑える。その後の展開も、「行儀が良くて、品行方正で、人なつっこく、悪いことを絶対せず、悪い言葉も使わない」ように、予め教育された状態下での言動も愉快だし、偶然養母となった素人画家が、自分の好みで買ってきて着せる服が、女の子顔負けの可愛い物ばかりだが、それを素直に着てしまうところも無垢な感じで心をくすぐられる。完全な子供向きの映画だが、一番の見所は、友達となった女の子に教わる色々な悪いこと。事前教育の禁止事項に当たるため、必死になって真似ようとするところも可愛いし、その違反行為により、表情が人間らしくなっていくところが、見ていて心温まる。因みに、この映画を受けて作られたアメリカのTV映画『Konrad』(1985)は、出来が悪いので紹介する気にならない。

ベルティ・バルトロッティは、1人住まいの中年女性。狭いアパートにはあちこち自分の描いた絵が置いてあるので、画家なのだろうが、それで生業が成り立っているのかは不明で、少なくとも生活は豊かではない。ある日、そんな人物のところに大きな箱が届けられる。頼んだ覚えなどないが、宛名が正しいので受け取ってしまう。一体何だろうと缶を開けてみると、中には身長30センチほどのミニ子供が入っていた。そして、缶の裏蓋に貼ってある袋の中の粉を、ぬるま湯に溶かして自分にかけてくれと頼む。ベルティが指示通りにすると、ミニ子供はあっという間に普通サイズの7歳のコンラッド少年に変わる。子供服など持っていないので、ベルティは大型スーパーに行き、服からオモチャまで山ほど買って帰ってくる。服を見たコンラッドは突拍子もない色や柄に驚くが、「母親」から、それが格好よくて独創的だと言われれば、素直にそれを着てしまう。週2回だけデートをしている薬剤師のエイゴンは、行儀の良いコンラッドが一目で気に入り、毎日アパートに来るようになる。そして、いよいよ学校に通う日、コンラッドは鈴の付いた猫ちゃんニットキャップをかぶり、白、黄、ピンク、緑、青、黒の派手な横ストライプのコートをはおり、Tシャツとズボンはまっ赤、おまけにTシャツには真紅のビーズの刺繍まで付いている。それでも、なぜか同じアパートに住むキティに気に入られ、誕生パーティに呼ばれ、キスしてもらいニッコリ。コンラッドが生活に馴染んできた頃、「インスタント子供」の製造会社から、缶は誤配達だったので即刻返還を求めるという強権的な勧告状が届く。それに対し、徹底的に抵抗しようとするベルティとキティ。2人は巻いた絨毯に隠して〔『ルーム』そっくり!〕、コンラッドをエイゴンの店に運ぶ。そこでは、キティが、コンラッドに悪い言葉を教え、壁に落書きするなど やってはいけない行為を次々と仕込み、理想の子供から程遠い悪ガキに変えようと「再教育」する。そして、遂に、会社の部長らと、真の両親が、コンラッドを強制収用にやって来る…

ダニエル・トーベケは典型的な美少年。最初のうちは、工場生産の無機質で感情のないところにもってきて、養母のベルティが、自分の趣味で極彩色の服を着せるので、着せ替え人形的な可愛らしさもある。同じアパートの「じゃじゃ馬」キティと仲良くなることで、人間らしい表情が徐々に芽生えるところがいい。残念ながら、映画出演はこの1本のみ。


あらすじ

ある日、アパートの前に青いバンが停まる。車の側面には、「インスタント子供」会社の絵が描いてある。それを見た近所の子供たちが、「ホントにあの中で 生きてるのかな?」と興味深げに見ていると、全身青色の制服を着た男が2人降りてきてバックドアを開け、中から青い箱を取り出す。そして、それを2人で持ち、アパートの入口へと向かう(1枚目の写真)。ピンクの部屋着の中年女性ベルティが、雑誌を読みながらつまみ食いをしていると、ドアのベルが鳴る。何事だろうとドアを開けると、そこに立っていたのは例の2人組み。渡された受取証にサインして、大きな青い箱を渡される。今日、こんなものが届く覚えはないので、「何て重いの! 絶対ポプコーンじゃないわね」とブツブツ言いながら居間まで運び込む。箱のテープを剥がすと、青い封筒が入っていて、中には青い紙にタイプされた手紙がある。そこには、こう書いてあった。「バルトロッティ夫人、ご希望の品をお届け致します。もし ご不要の場合は返品が可能です。ただし、安全衛生上の理由から、未開封の場合のみとさせて頂きます」(2枚目の写真)。本当なら、この段階で疑問を持たなければならない。ただ、ベルティは、至極ずさんで、健忘症的なところもあるので、細かなことまで気が回らない。そこで、箱に入っていた缶を持ち上げ(3枚目の写真)、箱から出してしまう。缶を見て、「ソーセージでもないわね。ハンバーグでもない」。まあ、この程度のいい加減さなのだ。
  
  
  

ベルティはキッチンから缶切りを持って来て、大きな缶をエッチラオッチラと開ける。そこが何ともユーモラスだ。蓋を開けると、思わず、「まあ!」。何とそこには、ミニサイズの子供が立っていた(1枚目の写真)。そして、「初めまして、お母さん。培養剤は蓋の裏です。少し急いでもらえると、ありがたいのですが。一度缶を開けてしまうと、僕は、活性化剤なしでは長持ちしないので。粉を4リットルのぬるま湯に溶かして僕にかけて下さい」と丁寧な言葉で話す。相手を見て、少し不安になったのか、「水は正確に測って下さい」と付け加える。ベルティが水をバケツに持って来ると、「培養剤を入れて かき混ぜて下さい」。ベルティは、袋を口で食い破ると、そのままテキトーにバケツに入れる(2枚目の写真)。そして、袋をゴミ箱に投げ込み、テキトーにかき混ぜる。「それでは、培養液を僕にかけて下さい」。ベルティが試しに1/3ほど入れてみると、ミニサイズが、缶から上半身が出るくらい大きくなった(3枚目の写真)。そして、残りを注ぐと(4枚目の写真)、そこには普通の子供が立っていた(5枚目の写真)。確かに、インスタント子供だ。ここは、一番の見所なので、写真の枚数を多くした。
  
  
  
  
  

少年は、狭くなった缶から出ると、ベルティにもう1つの手紙を渡す。そこには、「父親:コンラッド・アウグスト・バルトロッティ。母親:ベルティ・バルトロッティ。名前:コンラッド・バルトロッティ、1974年10月13日生まれ。国籍:ドイツ人」とあり、さらに、「ご両親へ。これは 我々の最先端技術による製品で、完璧な状態でお渡し致します。しかし、子供ですので 適切な指導、健康管理、愛情は必要です」と書いてある。この「ベルティ・バルトロッティ」は、確かにこの女性の名前だが、実は、このコンラッド少年を注文したのは同名同姓の別の女性で、彼女には、書類に記載された名前の夫もいた。一方、こちらのベルティは、気ままな一人暮らしの中年女性。ここで、当然誤りに気付くのが常人だが、彼女には当てはまらない〔かなりの変人〕。コンラッドが裸なので、「着るものはないの?」と訊く(1枚目の写真)。「両親から支給されると 言われました」。ベルティは、自分のジャケットをテキトーに持って来る。「これは、7歳の男の子の服ですか?」。「違うわ。小さな子は、こんなの着ない。あたしのジャケットよ。こんなの初耳だったから」。コンラッドは、また心配になる。「知らなかったんですか?」。「送りつけて来たのよ」。「僕たち、注文を受けて 発送されるんです。出荷部門のミスかもしれませんね」(2枚目の写真)。「そうじゃなくて、今日届くなんて知らなかったの。少なくとも8日か2週間はかかると思ってた」〔これは嘘〕。「僕が来て幸せですか、お母さん?」。「とっても幸せよ、コンラッド」。「1・2時間、横になっていいですか? 成長で、疲れましたから。休まないと、機能障害を起こす可能性があるんです」。コンラッドは、裸になってベッドに入る(3枚目の写真)。
  
  
  

コンラッドが寝ている間に、ベルティは子供用のものを取り揃えに出かけて行く。原色の ど派手な服が好きなベルティは、もっぱら自分の好みで服を選ぶ(1枚目の写真)。ベルティが帰宅すると、コンラッドはジャケットをはおって起きている。「お早う、お母さん」。あんまり可愛いので、思わずキスしようと抱き上げるが、何もせずにそのまま床に降ろす。「なぜ持ち上げて、また戻したのですか?」。「キスしようとしたけど、していいか迷ったから」。「僕たちは、いい子だった時だけ、両親からキスしてもらえます。僕は一人で家にいて、何も壊しませんでした。それに、寒かったから、ジャケットを着ていました。不適切だったでしょうか?」。7歳の子にしては、すごく理屈っぽい。「まさか、そんな」。「なら、キスしてもらうことが できます」。悪い子だとキスしてもらえないのだ。こうした各種の制約・禁止事項は、出荷前に、工場で教え込まれている。かくして、コンラッドはベルティにべたべたとキスされる。その後で、買って来たものを見せられる。「気に入らないかしら?」。「そんなこと ありません。あなたさえ良ければ、僕は満足です」。「自分で気に入らなきゃ。着るのはあーたでしょ」。「僕は、ファッションのことは知りません。でも…」。「でも、何なの? 言いなさいよ」。「通りの子供たちを見ましたが、全然違った物を着ています」(2枚目の写真。頬に付いているのは口紅の跡)。「あんな つまらないもの。想像力や自信のかけらもない。親だってそう」。そして、自分の着ているセーターを見せる。「見てごらん、太陽に猫に雄鹿、あたしが刺繍したのよ。世界に1つしかないから、とっても自慢してる」。そして、コンラッドに勝手に選ばせる。コンラッドの選んだのは、猫ちゃんニットキャップ、象さんの刺繍付き赤のTシャツ、派手な柄入りの黄色の短パンという出で立ち。それを見て、「とっても 素敵よ。すごくユニーク。こんな綺麗な子、見たことないわ」と褒められるので、コンラッドは素直にその言葉を信じてしまう。そして、オモチャとして勝ってきた積み木の箱を渡される。「どこで 遊べますか?」。「どこって?」。「僕が遊べる隅っこです」。「隅っこ? それ何?」。「僕たちは、子供部屋か、隅っこが与えられます。ここには子供部屋がありませんから、隅っこをあてがって下さい」(3枚目の写真。上半身だけだが、派手な出で立ちが良く分かる)。「ウチには、居間と寝室と玄関と浴室とキッチンがあるわ。隅っこは、どの部屋にも。あーたは、全部使っていいのよ。部屋の真ん中もね」。「結構です。1つで十分です」。「じゃあ、どこでもどうぞ」。「どこが一番邪魔になりません?」。「誰の?」。「あなたの」。「あたしに構わず、好きな所で遊んでちょうだい」。「じゃあ、そこにします」とコンラッドは居間の隅を選ぶ。長々と紹介したのは、教条主義的なコンラッドの「教え込まれた」話し方が面白かったから。
  
  
  

ベルティは、火曜と土曜だけ付き合っている薬剤師のエイゴンと、その夜、映画に行く約束をしていたことを思い出す。「今日は映画の日。あーたのことを話したら、すぐに戻るから」と言って、急いで支度する。「僕のために、急ぐ必要はありません」。「ダメよ、急がないと。もっと一緒に遊びたいの」。映画が始まってから映画館に着いたベルティ。遅れた理由を言う暇もなく館内に連れ込まれる。館内では、偶然、本編の前のコマーシャルで、インスタント子供の宣伝が流れている。「お子さんを欲しくはありませんか? でも育児がご心配では? 私どもは、ご指示通りの子供を お届け致します。事故の恐れも危険性も一切ありません。最新の科学技術を駆使し最高の品質管理の元で製造した製品は、どなたにもご満足頂けます。普通のお子さんと違い、インスタント子供は清潔で行儀が良く、いいつけに従います」。ベルティは、我慢できなくなって、エイゴンを映画館から連れ出し、アパートに帰る。そこでは、隅っこに正座して、コンラッドが遊んでいた。「この人はエイゴン、薬剤師さん」。「今晩は、エイゴンさん」(1枚目の写真)。エイゴンは、箱に入っていた手紙類を見て、「大変だ! えらいことになるぞ」と心配する。ベルティは、至って呑気だ。「注文した覚えはなかったけど、何となく缶を開けたの。そしたら、縮んだ小人が見上げて、『初めまして、お母さん』って言うじゃない」。「信じられん!」(2枚目の写真、缶詰が映っている)。そして、「送り返そう」と言い出す。その時、コンラッドが顔を見せる。「もう、寝る時間でしょうか?」。「疲れちゃったの?」。「僕たちは、寝る時間まで 疲れません」。「好きなだけ起きてていいのよ。いつ寝るかは、自分で決めなさい」。そして、コンラッドをソファーの前に座らせ、「キャンディー 欲しいでしょ?」と訊く。「結構です。寝る前の間食は 体に悪いんです」。ベルティは、問答無用で、コンラッドの口にキャンディーをねじ込む。それを見たエイゴンは、「ベルティ、何をする。この子は正しいぞ。糖分が歯に悪いって、ちゃんと知ってる」。「くだらない」。ここで、コンラッドが「キャンディーはおいしいけど、痛みます」と言う。「キャンディーで 胃は痛くならないわ」。「胃は痛くないけど、心が痛みます。寝る前にキャンディーを食べることは 禁じられていますから。僕たちが、最終準備段階の間に受けた教育の、最重要部分の1つです。『罪悪感の時間』と呼ばれています」(3枚目の写真)。この下りもすごく面白い。コンラッドの言葉に感銘を受けたのは、職業柄、栄養とか糖分に詳しい薬剤師のエイゴン。「すべての子供が、こんな風だったらな。行儀が良くて、品行方正で、人なつっこく、礼儀をわきまえた7歳の男の子なんて、最高だ」。「あんた、バカじゃないの?」。
  
  
  

コンラッドは眠くなり、「僕、どこで寝ましょうか?」と訊く(1枚目の写真)。ベルティがソファの用意をしている間、ソファに並んで座っている2人の格好が手の置き方まで同じなのは面白い。エイゴンは、意を決して、「なあ、コンラッド、君には、ちゃんとした家族や父親が必要だ」と話しかける。「はい」。「私は、君の お父さんになりたいと思う」。2人は見つめ合う。エイゴンはベルティに、「私が、この子の父親になる。コンラッドも賛成した」と話す。「そう、いいんじゃない」。そして、コンラッドに間に合わせのパジャマを渡す。コンラッドが着替えている間、エイゴンは、「コンラッドを明日、学校に連れて行って、登録しないと」と言い出す。「明日は日曜だから、閉まってるわ」。「じゃあ、月曜に」。そして、「彼は、とても知的な子供だ」と言うと、話題を逸らし、「ベルティ、これは花を育てるのに似てる。水をやらなかったら枯れて、スケッチできなくなる。子供だって同じだ。君は変わらないと。もっときちんとして、何より母親らしく」とお説教。「あたしが、母親らしく?」。「そうだ。もっと、しっかりしないとな」。「あんたに関係ないでしょ」。「私は、コンラッドの父親だぞ。ちゃんとした母親をあてがいたい。そんな服も もう止めるんだ。物事はきちんとやり、料理も普通に作る。それから、ちゃんとした収入も必要だな。子供には まともな服を着せないと」。途中で、コンラッドが「パジャマ」を着てお休みを言いに来るが(3枚目の写真)、とても言えるような雰囲気ではないので、黙ってソファに行く。
  
  
  

明くる日は日曜日。コンラッドは早起きし、ベルティが目を覚ました時には、ソファはきちんと片付けられていた。「お早う、コンラッド、なぜ こんなに早いの?」。「訓練です。明日から学校なので、ちゃんと支度できるように したいのです」。そして、朝食。コンラッドは、思ったよりたくさん食べている。「あらまあ、お腹空いてるのね」。「いいえ、満腹で、もう限界です」(1枚目の写真。赤のTシャツだが、刺繍は真紅の花)。「なら、やめなさい」。「でも、テーブルの上の物は、残せません」。その言葉で、ベルティは 急いでテーブルの上を片付ける。その後で、動物園か散歩に行かないかと誘われたコンラッドは、「もし できれば、学校の準備をしたいのです。他の子のことを知りませんから」と言い、「教科書が借りられそうな7歳の子を 知りませんか?」と訊く。「1年生から始めないの?」。「最低でも、2年生から始めたいのです」〔7歳は2年生に該当〕「僕は、インスタント子供ですが、エリート子供でもあるんです。僕の知的能力の退化は、望まれないでしょう?」。こうまで言われて、ベルティは1階上の同年の娘に頼むことにする。さっそく、1階上を訪れたベルティは、教科書を今夜まで貸してくれと打診。出て来た7歳のキティは、「おばさん、子供いたっけ?」と無遠慮に訊き(2枚目の写真)、「こら、黙って、本を持ってきなさい」と父親から注意される。キティは、4人目の主要登場人物だ
  
  

日曜なのに、突然、エイゴンが訪ねてくる。「今日は、ベルティ」。「あら、ここで何してるの?」。「お邪魔だったかね?」(1枚目の写真。コンラッドと手をついないでいるところに注目)。「でも、土曜は昨日で、火曜は明後日でしょ」〔会う日は、土曜と火曜のみ〕。「それは昔の話だ。今は、父親なんだ」。エイゴンは、コンラッドが気に入り、完全に父親気分。「父親は 何回くらい来るの?」。「来られるだけ」。「じゃあ、毎日でも?」。「もちろん。自由時間は いつも一緒にいるつもりだ。コンラッドが眠ってない限り。眠ってたら、父親は要らないからな」。エイゴンは、キティの教科書を使い、さっそくコンラッドをテストする。「13足す17、割る3は?」。「10です」(2枚目の写真)。いくつか試し、「ベルティ、この子は2年生じゃないぞ。3年生か4年生だ」と言い出す。「7歳の子が4年生にはなれない。それに、なんで、そんなこと言えるの?」。「もし、のコンラッドみたいな利口な子なら、当然だろ」。「あんたのコンラッド? それ何よ?」。「失礼。私たちのコンラッドだった」。「あたしのコンラッドよ」。「こんな議論は よそう。特に子供の前では」。「ムカつく人ね」。「コンラッド、動物園に行こう。お母さんが 落ち着くまで」(3枚目の写真。ここでもしっかり手を握っている)。
  
  
  

いよいよ登校日。工場生産のコンラッドにとっては、初めての学校だ。服装は最高に派手(1枚目の写真)。ベルティは、「コンラッド、もっと子供らしく話した方がいいわ」とアドバイス。「話してません?」。「分からないわ。7歳の子 知らないから。でも、違うと思う」。教室の中では、コンラッドが、授業時間の合間も熱心に教科書を見ている(2枚目の写真)。ど派手なコートの下も、例の真っ赤なTシャツだ。ズボンも真っ赤なので、全身真っ赤ということになる。よくこれで虐められなかったと不思議なくらい。学校が終って出て来たコンラッドを、「両親」が出迎える。ベルティ:「どうだった?」。エイゴン:「Aは取れたか?」。首を振るコンラッド。「違う? なぜだ?」。「教えてること、すっごく下らないんだもん」。「その言葉遣いは どうした?」。「他の子みたいに、話しただけさ」(3枚目の写真)。話し方の変化がすごく面白い。「今日は授業中 黙ってたんだ。らしい話し方、早く覚えなくちゃね。明日は、ちゃんと話せるから、Aは確実さ。でも、子供っぽいのと、ワルなのとの違いって、難しいね」。その時、キティが背後から「コンラッド!」と呼びかける。「あれって、上の階に住んでる おてんば娘じゃないのか? コンラッドには、ああいった子と 係わって欲しくない。私に、何度もアッカンベーをしたんだ」。「あたしの息子は、あの子と気が合うの」。「僕は どうすりゃいいの? 付き合うのか、合わないのか?」。ここで、止めようとしたエイゴンの足を、ベルティが踏みつける。「ほらね、お父さんも、付き合えって」。キティがコンラッドを誕生日のパーティに招待する。「3時くらいに来てちょうだい。じゃあね、バイ」。なぜか、キティは、最初からコンラッドが気に入っている。ところで、コンラッドの派手な服装だが、コンラッドがゲイでも性同一性障害でもなく、工場生産の子供で、これが当たり前だと思って着ているので、なぜか違和感がない。結構似合っているから面白い。そのうち紹介するカナダ映画『Breakfast with Scot(スコットと朝食を)』(2007)では、ゲイっぽい11歳の子が、ケバケバしい服を着るが、ワザとらしいので、正直言って気色悪い。
  
  
  

コンラッドが、また別な派手なTシャツを着、首にピンクのスカーフを巻き、手に誕生日のプレゼントを持って玄関で躊躇している(1枚目の写真)。「用意できた?」。「フローリアンも 招かれてる」。「いい子?」。「僕のこと、『バルトロッティ・あほッティ』って呼んだんだ。なぜ、子供は、他の子をからかうの?」。「簡単には説明できないわ。誕生パーティの後にしましょ。もし、そのフローリアンって子が、また何か言ったら、一発殴ってやりなさい。いいこと、ぶちのめすのよ。星が ちかちか1001個見えるほど、殴ってやりなさい」と勇気付けて送り出す。パーティでは、狭いアパートなので、子供たちだけ6人が丸いテーブルに座り、いろいろなお菓子をつついている。おとなしく座って食べているのはコンラッドだけ。一番ワルのフローリアンが、ゼリーを大きなヘラで何度も叩いたので、生クリームがコンラッドの顔にかかる。他の子は、次第にエスカレートし、自分のケーキを手でこね、互いにお菓子を投げ合い、最後はテーブルの真ん中にぐちゃぐちゃにお菓子を積み重ねて遊ぶ(2枚目の写真)。コンラッドは、顔にクリームを付けたまま、ただ一人座って、一言もしゃべらず、機械人形のようにお菓子をつついている(3枚目の写真)。インスタント子供会社の製品には、いろいろな禁止事項があり、当然、パーティで出されたお菓子をぐちゃぐちゃにするなどもっての他の行為なのだ。コンラッドがひたすら無表情なのは、違反行為のひどさにショックを受けたことと、どういう態度に出たらいいか分からないからだろう。
  
  
  

キティのお母さんは、テーブルだけでなく床までベトベトにされ、カンカン。子供たちは外に放り出される。アパートの裏で遊ぶ6人。最初は、1人1人大きなポリ袋に腰まで入り、そのまま飛び跳ねて順番を競う。コンラッドが1番になったので、キティ以外はおかんむり。「下らない遊びだ!」「アホンダラ用さ」と負け惜しみを言われる。キティは同じアパートに住んでいるイタリア人に、「カルーゾ! ダンス用に歌ってよ!」と頼み、テディベアの歌で6人が輪になって踊る。「♪20本の赤い脚のある緑のテディベアがいましたとさ/禁じられてて、笑ったり踊ったり歌ったりなんかしない/ほらほら、テディベアは、いい子で静かだぞ/ほらほら、テディベアは、やりたいこともできない」という歌詞だが、映画の中で、歌詞を変えながら何度も使われる〔その時点でのコンラッドの様子が歌詞になっている〕。歌が終ってコンラッドとキティが仲良く拍手していると(1枚目の写真)、やっかんだ4人から、「くだらない! ゲロが出る!」「行こうぜ」「サイテーのパーティだな」「みんな、あのバカ野郎のせいだ」「あんな奴の どこがいいんだ?」と罵りながら帰ってしまう。最後の悪口は、「ラブラブでキスしてろ、バルトロッティ・あほッティ」の合唱。2人だけになって、アパートの階段を上がるコンラッドとキティ。「ミシが言ってたけど、僕、君の新しい恋人?」。「そうよ」。「ホント?」。「ホントよ」(2枚目の写真)。「それって、僕を慰めるために言ってるの?」。「ナンセンス」。「嬉しいな」。その時、キティがいきなりキスをする(3枚目の写真)。にっこりするコンラッド。初めて見せる人間らしい笑顔だ(4枚目の写真)。「明日は、一緒に学校に行って、一緒に帰りましょ。誰かに意地悪されたら、あたいがやっつけてやる。コテンパンよ」。
  
  
  
  

その夜、ベッドの上で一緒に食事をしながら、コンラッドはベルティにキティのことで質問する。「7歳の女の子が、7歳の男の子を守るって、いいこと?」。「そうよ、必要なら」。「それで、笑われたら?」。「もし、他の奴らに言われたことや、されたことに拘っていたら、同じ穴のムジナよ。一歩も先には進めない。分かる?」。「分からないけど、キティは僕を愛してる」(1枚目の写真)。「すごいじゃない。偉いわ、コンラッド。乾杯しないと」。ベルティは、寛大な「お母さん」なのだが、夕食の内容は、どう見ても健康にいいとは思えない。そこにエイゴン登場。一目見るなり、「何だこれは! ひどいな。7歳の男の子には、動物性蛋白が必要だ。ビタミンA、B2とDも」。そして、「こんなの夕食じゃない。胃を悪くする『悪食』だ」とも。「君は 根本的に変わらないと、コンラッドのような子を育てるには不適格だ。私なら、完璧に教育してやれる」。「自分の子ができたら、好き勝手にしなさいよ。でも、コンラッドに構わないで」。「私を侮辱するのは構わん。だが、の息子に関しては、一歩も引かんぞ」(2枚目の写真。困惑したコンラッド)。「あんたの息子? 父親の名前はアウグスト・バルトロッティでしょ!」。「コンラッドは、私を父親に選んだ。それに、アウグスト・バルトロッティは存在せん。そもそも、母親は、学用品をちゃんと買ったのかな?」と言いながら 鞄を見せる(3枚目の写真)。地味好みのエイゴンにしては、えらく派手な鞄だ。「いい母親なら、買い忘れんぞ」。「買ってないけど、学用品を揃えることが、そんなに大事なの?」。話はさらにエスカレート。「私は、コンラッドを引き取りたい。最高の乳母を雇って、最高の学校に通わせる」。「あんた、最高のアホウよ」。「放ったらかしじゃないか。なあ、コンラッド、これから私と一緒に暮らそうな」。「どうしたらいいか分からないよ」。「わが子よ、自分で決めなさい」。この危機に対し、ベルティの作戦は見事だった。エイゴンに、「キティ・ロジーカは好き?」と訊いたのだ。「あれは、最悪のおてんば娘だ」。「この子のガールフレンドになりたがったら?」。「無論、阻止してやる」。それを聞いたコンラッドは、「僕、お母さんと一緒にいたい」と意思表示。「私が、嫌いになったのか?」。「お父さんは、大好きだよ。来てくれると、すごく嬉しいよ」。かくして、事は丸く収まった。
  
  
  

その頃、インスタント子供の会社では、大騒動が持ち上がっていた。コンラッドを受け取るはずの両親からの苦情で、コンラッドが同名同姓の女性に誤配されたことが分かったのだ(1枚目の写真)。一方、学校でのコンラッドは、鮮やかな色の鞄が新しく加わったことで、暗い色調の生徒たちの中にあって、一際異彩を放っている(2枚目の写真)。そのせいもあり、猫ちゃんキャップ姿でキティと仲良く学校から出てくると、「ラブラブのカップルだ!」「べっとりキスして、くっついて家に帰れ」とはやし立てられる(3枚目の写真)。怒ったキティが悪ガキを追いかけてるが、何もしないコンラッドには「意気地なし!」の大合唱。
  
  
  

消沈して家に帰ったコンラッドに対し、ベルティは、テディベアの替え歌を聞かせる。「♪30個の赤い耳のある緑のテディベアがいましたとさ/唾をペッ、足をドンドン、屁をプー、お構いなし/ほらほら、テディベアは、悪い子で騒いでるぞ/ほらほら、コンラッドは、やりたいことも分からない」。コンラッドは、「僕、どうしたらいいか 分からない」と打ち明ける。「7歳の男の子は、お母さんのお話しや歌は ちゃんと聞かないと。でも、7歳の男の子でも、お話や歌が間違ってれば 無視するんだ」(1枚目の写真)。そんなコンラッドも、キティの話はちゃんと聞く。「オリバーは、あんたのこと 我慢できないって。告げ口屋って言ってたわ。告げ口はダメよ。他の子が困るから。言いつけっ子は、悪い蛇と同じ」。学校の帰りには、2人で「誰の真似か」を当てるゲームで遊んでいる。キティが、「カランテッラ」とイタリア語風に歌い、「だーれだ?」と言うと、すかさずコンラッドが「カルーゾだ」。さらにキティが、「子供に必要なのはビタミンだ」と言うと、「エイゴン?」(2枚目の写真)。「今度は、あんたの番」。コンラッドは、考えて、言葉でなく行動で示す。いきなりキティにキスしたのだ(3枚目の写真)。とまどうキティに、「君がやったこと」と言う。つまり、キティの真似をした訳だ。2人のじゃれ合いは、微笑ましい。アパートに入る時、コンラッドは、「禁止されてることはできないし、大人を怒らせられない。工場で、そんな風に作られたんだ」と打ち明ける。「ナンセンス。誰でも変われるわ。あんたもよ。試してないだけでしょ」。
  
  
  

ベルティのアパートで、コンラッドとキティが、如何にも7歳の子供らしく遊んでいる(1枚目の写真)。その時、玄関のベルが鳴り、青い封筒が速達で届けられる。キティが「どっから届いたの?」と訊くが、ベルティは「これ… ただの広告よ」と口を濁す。「広告は、速達じゃ来ないわ」。コンラッドが封筒の色に目を付け、「それ、工場からの手紙だ」と言う。キティ:「中、見なきゃ」。「嬉しくない話だったら、どうするの? いいこと、あたしの直感じゃ、ロクでもない内容に決まってる。悪意が感じられるの」。「なら、なおさら、開けないと! 前もって知ってると、ダメ-ジが減るでしょ」。積極的なキティに押されたベルティは、自分では読む気がしないので、コンラッドに渡す。手紙の内容は、「バルトロッティ夫人。出荷部門の再調査の結果、誠に遺憾な間違いが発覚しました。貴女に取得資格のない7歳児を発送したのです。当時、貴女が注文された商品は、製造中止になって久しい記念特価品2点でした。即刻、少年を返還して下さりたく、当社の作業員が回収にお伺いし、正当な所有者の元に送付致します。上記に関連して ご注意頂きたい事は、インスタント子供は、全存続期間に対し、当社が所有権を保持しており、両親には借用権が付与されているに過ぎない点です。この件に関し異議申立は無効であり、如何なる法的措置も拒絶されます」(2枚目の写真)。キティは、コンラッドが読んでいる途中で、「失礼な言い方!」「何よ これ!」「恥知らず!」と怒りまくるが、ベルティは落胆して、「てことは… あと数日なのね」と寂しく言うばかり(3枚目の写真。不安げなコンラッド)。キティは「降伏しちゃダメ!」と懇願するが、ベルティは「だけど 誤配なのよ。それに、他の誰かさんのものなら、それに、あたしの注文が別の物だったのなら… 料理も ちゃんとできないし、エイゴンも、いい母親じゃないと 言ってた」とすごく弱気の発言。
  
  
  

コンラッドは、ベルティの膝の上に乗ると、「あなたは僕のお母さんだし、いいお母さんだ」と意思表示をする。キティも、「聞いたでしょ、離れたくないのよ!」と声援を送る。「だけど、あたしには、ビタミンをあげられない。歌も ちゃんと歌えない。結婚もしていない」。「僕、あなたの愛し方に慣れたよ。エイゴンのにも。それに、もし出てったら、キティに会えなくなっちゃう。僕、ここにいたいんだ。心から」。「ホントにそう思うの?」。頷くコンラッドをキス責めにするベルティ(1枚目の写真)。そして、急に元気になると、「あいつらをやっつける手立てを考えましょ」と宣言する。コンラッドは、過激なことは出来ないので、「僕がここにいたい、って言ってると、手紙に書いたら?」と提案するが、キティに「ダメよ。奴ら、あんたの意志なんか無視するわよ!」と直ちに却下。ベルティは、「もっとずるい手を考えないと」と言う。コンラッドは、「でも、それが禁止行為だったら、加われないよ」としか言えない。それを聞いたベルティは、「コンラッドは、寝室に行ってなさい。キティと相談することがあるの」と追い払う。これから先は、ベルティとキティの会話。コンラッドは、おとなしく椅子にちょこんと腰掛けている(2枚目の写真)。「まず コンラッドを隠さないと。奴らに見つからないように。エイゴンの所がいいわ。そして、奴らが『もう要らない』と思うよう、変身させるの!」。「横着で、口汚く、バッちくて、生意気にするの?」。「その通り。工場で教え込まれたことを、全部破棄させるの」。「誰が それをするの?」。「エイゴンには無理ね」。「奴らの手口は巧妙だから。でも、あんたなら出来るわ」。キティに重責が負わされることに。
  
  

コンラッドを気付かれないように連れ出す方法は、カナダ映画『ルーム』(2015)と同じだ。コンラッドを絨毯に包んで、ベルティとキティが、洗濯屋に持って行くと見せかけて運び出す(1枚目の写真)。疑われないよう、一旦、洗濯屋に運び込み、「(洗濯代が)高いわね。考えてみる。こっちから出ていい? こっちに住んでるの」と言って、裏からこっそり運び出し、薬屋の裏口でエイゴンを呼び出す。「ベルティ、何のつもりだ?」。「隠しに来たの」。「なんで絨毯を隠すんだ?」。「絨毯じゃない、コンラッドよ」と言いながら、絨毯を大きなテーブルの上に置く(2枚目の写真)。そして、巻いた絨毯を端まで押して行き、3回転させてコンラッドを出してやる(3枚目の写真)。映画は、裏口をくぐってから、コンラッドが姿を見せるまでノーカットなので、ダニエル・トーベケは、固いテーブルの上でゴロゴロ回されて大変だったろう。ベルティは事情を説明しようとするが、エイゴンは、客を待たせているので、「時間がない。いつ客が来るか分からん」と断る。「じゃあ、店を閉めてらっしゃい」。ここで、キティが「だけど、そんなことしたら 目立っちゃう」と賢い提言をする。「薬屋さんは、閉めちゃダメ」。キティ嫌いのエイゴンも「そうだ、偉いぞ! 大したもんだ」。ベルティは、コンラッドに、「キティとあたしは、帰るわ。ここで、エイゴンを待ちなさい。6時半には来るから。外へ出ちゃダメよ」と念を押して、空になった絨毯をキティと一緒に抱えて出て行く。そして、さっきの洗濯屋の裏口から入り、「考え直したわ」と言って絨毯を渡す(4枚目の写真)。
  
  
  
  

コンラッドは、待っている間、書棚に入っていた分厚い本を取り出して読み始める(1枚目の写真)。一方、ベルティは、気取られずにエイゴンに会いに行くため、思い切って地味な服装で変装する。自分の変わり果てた姿を鏡に写し、「これで、シラミみたいに灰色で醜いわ。誰にも あたしだなんて分からない。おえっ」とつぶやく。如何にも彼女らしい。そのまま、エイゴンのアパートに直行。最初、ドアアイから覗いたエイゴンは誰か分からず、「何か ご用ですか?」と訊いたほど。やっと気付き、「君なのか。私 好みだな」。「如何にもね。レバーソーセージみたいな格好が、お好みとは」。「レバーソーセージの方が、オウムよりいい」〔オウムは極彩色〕。コンラッドが待っている部屋に行くと、本が うず高く積まれている。「僕、97の外国語覚えたよ。お父さんが教えてくれた」(2枚目の写真)。ベルティ:「いいこと、今から計画を説明するわよ」。「悪いけど、お母さん。役に立たないと思うよ。見つかっちゃうから」。「異常事態には、異常な方法で対処するの」。そう言い置くと、ベルティは、自分のアパートに戻る。そうしないと、怪しまれるからだ。
  
  

ベルティのアパートに、青服が1人で現れる。「誤配達品を回収に来ました」。「残念ね。誤配達品は3日前に逃げたわ。跡形もなく」。「そんな事は許されません。あれは、当社の所有物ですから」。「許されん? 何よそれ! 注文もしない物を送り付けた上、面倒まで見させといて!」。「警察に 失踪届けは出しましたか?」。「よくお聞き、この青服のチンチクリン! 誰が報告なんかするもんか! 自分の物でもなく、欲しくもない物なのに! 地獄へ行きな!」と怒鳴って追い返す。一方、エイゴンのアパートでは、キティによるコンラッドの再教育が始まっていた。「知ってる悪態言葉、全部言ってみて」。「1つも知らない」。「フローリアンとオリバーが、後ろから叫んでたじゃない」。「そんな言葉、口に出せないよ。息が詰まるんだ」。「じゃあ、礼儀正しい言葉と悪態を 交互に言ってみたら?」。「愛しい人」(1枚目の写真)。次の言葉が出ないので、キティが「まぬけ」と教える。「まぬ…」。しかし、コンラッドには、その先が口に出せない。「さあ」。「まぬ…」。「言って」。「まぬ… まぬ… まぬ… まぬ…」。ここで見かねたキティが針でコンラッドの腕を刺す。「痛い」と言って、「まぬ… け」と初めて口にする。キティが頬にキスする。「愛しい人。まぬ…」。「ほら」。まぬ… まぬ…」。また針でチクリ。「痛い! …け。まぬ… け」。キス。「まぬ… け」。キス(2枚目の写真)。コンラッドに笑顔が浮かぶ(3枚目の写真)。キスの意味が判ったようだ。「まぬけ、まぬけ、まぬけ」。キスも続けて3回(4枚目の写真)。すごく効果的な教育方法ではある。「早く学んだわね」。何とも微笑ましいシーンだ。
  
  
  
  

キティは、「今日は、もう十分、じゃあ遊びましょ。壁に 絵を描くの」と言い出す。実はこれも教育の一環。「だけど、お父さん、絶対 許さないよ」。「エイゴンなんか無視して。お花 描きましょ」。そして、白い無機質な壁に「怖がらないで。まあ 見てて」と言ってクレヨンで絵を描き始める。「どうしよう、壁に絵を描くなんて、厳禁事項だ」と言っていたコンラッドも、見よう見まねで絵を描き始める。「まぬけ」が言えたことが大きく効いている。禁止事項も自分の意志で破れるのだ。「コンラッド、すごいじゃない」(1枚目の写真)。それからは思いのまま、2人して壁一面に絵を描いていく。キティに笑いかけるコンラッド(2枚目の写真)。もう普通の子と変わらない。エイゴンが戻ってきた時には、壁中が絵で埋め尽くされ、正面には、「KITTIE + KONRAD」と書いてある(3枚目の写真)。「何てことだ。ひどいもんだ!」。キティ:「異常事態には、異常な方法で対処しなくっちゃ、エイゴンさん」。「分かっとる」。「コンラッドは、悪態もつけるのよ」。コンラッドが、「そうだよ。『まぬけ、まぬけ、まぬけ』」と披露。キティは、「褒めてあげなくちゃ。でないと、無駄になっちゃう」とアシスト。「息子よ。早く覚えたこと、自慢に思うぞ」。コンラッドだけでなく、エラゴンの再教育にもなっているようだ。
  
  
  

ベルティのアパートに、今度は3人の青服が現れる。「バルトロッティさん、開けなさい。中にいるのは分かってる。誤配ですぞ。即刻開けない場合は、実力行使します!」。ベルティは、「やってみるがいい!」「豚野郎め!」と呟きながら、玄関扉の前に棚を置いて入れないようにし、ドア越しに「悪党ども! 誘拐犯め!」と怒鳴る(1枚目の写真)。そんなことで諦める青服ではなく、窓から勝手に入り込む。「不法侵入よ」。「我が社の所有物の盗難です」。「出てったと言ったでしょ。4日前に逃げたの」。3人で調べるうち、1人が遂に証拠を発見してしまう。「嘘を付きましたな。宿題の日付が2日前ですぞ」(2枚目の写真)。一方、エイゴンのアパートでは、コンラッドと健康食を食べながら、「キティは、とても思慮のある子だな」と以前なら信じられないような発言をする。「そうでしょ、すっごく」。
  
  

日中、エイゴンのアパートで、コンラッドとキティが一緒にいる。キティは、テディベアの替え歌を口ずさんでいる。「♪40個の赤い鼻のある緑のテディベアがいましたとさ/怒って暴れて、前や後ろに投げまくる/ほらほら、テディベアは、陽気で元気一杯…」。そう歌いながら、キティは、刻んだ新聞紙をコンラッドの頭の上から かけている(1枚目の写真)。そして、今度は、房付きの笠のある電気スタンドを前に、手にハサミを持ってコンラッドの前に掲げる。コンラッド:「早く学んでるよね?」。「そうよ」。コンラッドはハサミを受け取ると、房を切り始める。今度は、コンラッドが自分で歌う。「♪30個の赤い耳のある緑のテディベアがいましたとさ/ほらほら、テディベアは、悪い子で騒いでるぞ/ほらほら、テディベアは、ビクビクなんかしない」。そして、スタンドの笠の房を、どんどん切っていく(2枚目の写真)。テディベア、イコール、コンラッドだ。2人は窓を開け放つと、「雪だぞ!」と叫んで、刻んだ新聞紙を道に向かってバラまく(3枚目の写真)。たまたま下を歩いていた女性が、「覚悟なさい。お母さんに言うわよ!」と怒鳴る。それを指差してやったとばかり、笑う2人(4枚目の写真)。もう立派な悪ガキだ。しかし、その直後、コンラッドは通りのあちこちに青服がいるのに気付く。遂に居場所がバレたのだ。
  
  
  
  

キティは、さっそく薬局まで下りて行き、エイゴンに知らせる。「キティ、おおぴらに入ってきちゃいかん!」。「隠れても無駄なの。外を見て。青服の奴らで いっぱいでしょ?」。外を覗いたエイゴンは、「すべて終ったな」と言うが、キティは「終ってないわ!」と言い、「コンラッドのトコに上がっていって、徹底抗戦 始めるわ」と宣言。エイゴンはちょうど店に入ってきたカルーゾに、ベルティへの伝言を頼む。ベルティが到着すると、青服の連中も店に入って来る。店舗の真上の部屋では、コンラッドとキティがベッドの上でドンドン飛び跳ねて大騒ぎしている。そこに、インスタント子供会社の研究開発部長が、コンラッドの両親になるはずだった2人を連れて入って来る。「すぐに息子さんを腕に抱けますよ」。「何週間も遅らせて! 坊やは いつ手に入るの?」。「今すぐに、奥さん」。そう両親を宥めると、今度は厳しい口調でエイゴンとベルティに、「子供を出したまえ! 我々の所有物だ! 君らに権利はない!」と迫る。エイゴンは、「私を乗り越えていけ!」、ベルティは「通すもんか!」と抵抗するが、部長は「捕まえに行く必要はない。インスタント子供は、命令に従う」と自信たっぷりに言い、「コンラッド、コンラッド、すぐ来なさい!」と呼ぶ。返事は皆無。両親になるはずの2人は、「なぜ 来ない?」。「従順な子を注文したのよ」と不審がる。2階では依然として大騒ぎが続いている。ベルティが、「あの子には、聞こえないのよ。ありったけの大声で叫んだら?」と言うと、部長は、「わざと騒いでるに違いない!」と中に入って行く。その前に、敢然と立ち塞がったのがコンラッドだ。テーブルの上に立って、「誰だよ、バカみたいに怒鳴ってんのは? 僕はここだぞ、このまぬけ!」(1枚目の写真)と言うと、手に持っていた粘土の塊を部長目がけて投げつける。塊は部長のおでこを直撃。母親になる予定の女性は、「部長さん、これが、私たちの注文した子だと おっしゃるの?」と詰め寄る(2枚目の写真)。コンラッドは、「悪いな、ハメたのさ!」とせせら笑うように言う(3枚目の写真)。今度は、女性の夫が「問題外だ! これが行儀のいい子だって? インチキ会社じゃないか!」と強く抗議する。コンラッドは、部長に向かって、「落ち着けよ、じいさん、でないと胃潰瘍になるぞ。そうか、お偉いヘクター部長だったな! 酔っ払って、パンツに漏らしてたっけ」と嘲る(4枚目の写真)。そこにキティが入って来る。「奴ら、まだいるの?」。「すぐ、いなくなるさ」。「OK、じゃあ、追い払うわよ!」。そう言うと、今度は、2人で刻んだ新聞紙を投げつける(5枚目の写真)。部長は、「この子は、私の製品じゃない。あり得ない」と夫妻に弁解する。女性は夫に、「さあ、行きましょ。犬の方がマシよ!」と言って部屋から出て行く。その後ろから、コンラッドが、「サヨナラかい?」と追い討ちをかける。枚数が多くなったが、一連の流れなので、一括して紹介した。コンラッドの変身ぶりが凄い。
  
  
  
  
  
  

テーブルの上で、キティが、「コンラッド、やったわね!」と声をかける(1枚目の写真、コンラッドの目には恋心が)。4人だけになって、コンラッドがベルティに、「これから、ずっとこんな調子でやるの?」と尋ねる。エイゴンは即座に「ダメだ」と否定。今度はエイゴンに、「前みたいに戻らないとダメ?」と尋ねる。ベルティは即座に「ダメよ」と否定。キティが「何とかなるわよ!」と仲裁し、仲良く4人でキスをする(2枚目の写真)。最後の歌は、「♪ほらほら、コンラッドは、やりたいことが分かってる」。
  
  

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